こんにちは。マネーフォワードクラウド人事管理のPdMのtauです。
先日、2025年12月8日に社内でPdMチームのキックオフが開催されました。そこでは2026年11月期の戦略やロードマップの共有に加えて、いくつかのグループに分かれて「2030年のPdMスキルマップ」をテーマにしたワークショップが行われました。このワークショップでは、AI時代に今後より重要になるPdMスキルについて、個人ワークとグループワークを通じて議論を深めました。
正直に言うと、ワークショップ前の私は「AI時代のPdMに必要なスキル」というテーマについて、断片的な知識はあっても、体系的に深く考えたことはありませんでした。異なるドメインや経験を持つPdMメンバーと議論を重ねる中で、自分一人では辿り着けなかった視点や洞察が次々と浮かび上がってきました。これまで自分が深く検討していなかったテーマについて、自分以外の人の意見を取り込みながら考えを深める体験は、マネーフォワードの強いPdM陣と一緒に仕事をすることのメリットや醍醐味の一つだと改めて実感したワークショップでした。
本稿は、そのワークショップにおける私のグループでの議論を私なりに再解釈し、2030年のPdM像を想像してみる試みです。キーワードは4つ挙がりました。「FD-PdM」「商人センス」「宣言的プロダクトマネジメント」、そして「責任」です。

1. FD-PdM
AIエージェントが実用化されるにつれ、PdMは会議室での企画仕事だけでなく、「現場」への解像度をより高める必要が出てきます。これを、データ分析企業Palantir Technologiesが定義した職種「FDE (Forward Deployed Engineer)」に着想を得て、FD-PdM (Forward Deployed Product Manager) と呼んでみようと思います。
2025年現在、"SaaS is dead" の議論が巻き起こっています。事の発端は、ポッドキャスト BG2 のEP22 Satya Nadella | BG2 w/ Bill Gurley & Brad GerstnerでのMicrosoft CEOのSatya Nadella氏の発言です。
論点の一つに、AI時代のSaaSは「Software (機能)」の提供から「Service (成果)」の提供へシフトするといった予測があります。従来SaaSは「ユーザーが標準機能 (ベストプラクティス) に合わせる」モデルを採用していましたが、AIにより「ソフトウェアがユーザーに合わせる」ハイパーカスタマイゼーションが可能になるかもしれません。個社の業務向けに動作をカスタマイズし個別最適化するには、現場の暗黙知や例外処理といったコンテキストの理解が不可欠になるでしょう。
ここでFD-PdMの出番となります。本社で「汎用的な標準機能」を企画するのではなく、顧客の現場に入り込み、ラストワンマイルを拾い上げるのです。お客様の業務の現場を観察し、暗黙知を言語化し、AIが理解可能な形式 (プロンプトやRAG) に翻訳する、いわばAIに現場の文脈をインストールする役割です。
少し論理を飛躍してみると『丁稚奉公から始まる異業種探索』(pmconf 2023) は、まさにFD-PdMらしいと解釈したくなります。PdMが現場に深く潜り込んで N = 1の深いAs-isとTo-beの獲得を目指すこの動きは、今後さらに市場価値が高まるPdMスキルかもしれません。
2. 商人 (あきんど) センス
Forward Deployedとして特定した多数の顧客課題の中から、PdMは事業化の可能性を見極めるシビアな目利き力が求められます。
これまでのSaaSの強みの一つは、一度ソフトウェアを開発してしまえば、それをコピーして提供するための限界費用が限りなくゼロに近かった点です。ユーザー数を伸ばすことができれば、固定費が回収された時点で利益が指数関数的に拡大できました。
しかし、AIモデルは違います。推論のたびに膨大な計算リソースを消費し、利用量に応じた変動費が発生します。つまり、ソフトウェア産業において、製造業のような「限界費用」の概念が現れる可能性があります。さらに、ビジネスモデルが「ツールへの課金」から「成果への課金」へ部分的に移行すれば、限界利益への眼差しはより重要になるでしょう。
ここで求められるのが、2つ目のキーワード「商人 (あきんど) センス」です。
- このタスクをAIに任せた場合、トークンコスト (原価) はいくらか?
- その成果に対して、顧客はいくら支払ってくれるのか (売価)?
- AIがミスをした場合のリスクと補填コストは?
エンジニアリング的な「実現可能性」だけでなく、「その機能を動かして、持続的に利益が出るのか?」という会計の感覚を持つことが、2030年のPdMの仕事に占める重要性は高まるかもしれません。『プロダクトマネージャーが押さえておくべき、ソフトウェア資産とAIエージェント投資効果』(pmconf 2025) が記憶に新しい方もいることと思います。
3. 宣言的プロダクトマネジメント
現場のコンテキストと商売の勘所を持ったPdMは、具体的にどのようなスタイルでプロダクトの成功をマネジメントするのでしょうか。AI 時代のプロダクトマネジメントを想像するために、ここで「宣言的プロダクトマネジメント」という概念を提唱してみようと思います。
プログラミングのパラダイムに手続き型 (Imperative) と宣言型 (Declarative) があるのと同様に、PdMの仕様策定スタイルも変化する可能性があります。
- 手続き的: 「ユーザーがボタンAを押したら、画面Bへ遷移し、処理Cを実行する」という手順(How)を定義します。
- 宣言的: 「在庫が適正範囲に保たれており、かつ利益率が10%を割らない状態」というあるべき状態と制約を定義します。
AIエージェントは、与えられたゴールに対して最適なルートをある程度自律的に生成できるようになります。そこに人間が「まずこの画面を開いて…」と手順を細かく指示しすぎると、かえって効率を落とす場面も出てくるでしょう。
すると「目指すべき状態をくっきりと定義すること」の重要性が、これまで以上に高まります。これが「宣言的プロダクトマネジメント」の要です。これからのPdMが書くドキュメントには、画面遷移図や詳細設計書に加えて、目的関数 (= 目指すべき状態の定義) と、AIの動作を正しく制限するガードレール (コスト制約やリスク許容度) が含まれるようになるのです。
もしかすると「宣言的プロダクトマネジメント」の概念は、プロダクト開発のHowやWhatが急速に進化する中でWhyの重要性を改めて強調するものと位置づけられるかもしれません。プロダクトのCore、Why、What、Howは、書籍『プロダクトマネジメントのすべて』で提唱された「プロダクトの4階層」に登場する用語です。
4. 責任
宣言的にAIを動かす時代にあっては、実行責任の一部はAIが担えるようになります。5年後に本当に何もかもがAIによって代替されてしまえば良いのですが、おそらく人間に残される仕事も少なくないでしょう。そこで大事になるのは、陳腐ではありますが、「徹底的に施策を実行しきる責任感」ではないでしょうか。
AIに任せられる部分が増えても、PdMは「任せっぱなし」にはなりません。宣言的に定義した目的関数やガードレールが実際に機能しているか確認し、AIができない部分やうまくいかない部分は、自ら現場に足を運び、手を動かして解決する。FD-PdMとして現場への解像度を持ち、商人センスでコストと成果のバランスを見極め、宣言的に定義した目指すべき状態に向かって、最後まで実行しきる——これが2030年のPdMに求められる実行責任です。
5. まとめ
今回のキックオフイベントでは、PdMチーム全体で「2030年のPdMスキルマップ」をテーマに議論を深めることができました。ワークショップでは、それぞれのメンバーが異なる視点や経験を持ち寄り、理論と実践が交差する場で未来の PdM像が形作られていきました。嬉しいことに、この記事に書いた僕のチームの成果は、HRドメインのVPoP (Vice President of Product: プロダクト開発の最高責任者。参考) から表彰をいただくこともできました。

SaaSというビジネスモデルが形を変え、ソフトウェアのあり方が進化していく時代において、私たちマネーフォワードのPdMもまた、この静かだが確実な変化の最前線にいます。「ユーザーの課題を解決する」という本質は変わりませんが、その手法と求められる視座は、これから着実に変わっていくはずです。2030年のPdM像を描いたこの議論を起点に、2026年11月期も顧客に最大の価値を届けられるように精進していきます。