2023年3月、マネーフォワードのサービスの品質の維持・向上に責任を持つCQO(Chief Quality Officer:最高品質責任者)に高橋さん、池田さんが就任しました。
高橋さんにはグローバル担当として、ベトナムやインド、国内のすでにグローバル化が完了している部署を担当いただき、池田さんには国内担当として、その他の開発組織を担当いただいています。
今回はお二人にマネーフォワードの品質のこれからについてお話を聞きました。
自己紹介
高橋 寿一
MicrosoftやSonyにて、ソフトウェアテスト業務や品質担当部長を経て、2022年マネーフォワードに入社。またMicrosoft退社後にフロリダ工科大学大学院に入学し修士号(ソフトウェア工学)を、その後広島市立大学にて博士号(情報工学)を取得。著書に、知識ゼロから学ぶソフトウェアテスト、ソフトウェア品質を高める開発者テストなどがあり、Developers Summit 2022 Summerにてベストスピーカー賞を受賞。趣味はカヌー。
池田 暁
2002年に日立グループに入社、情報通信系、医用系、自動車系と多様なドメインにて品質保証活動を推進。Web業界に転身後、マネーフォワードに入社。社外ではNPO法人ASTER理事やJaSST実行委員等活動中。著書には、実践ソフトウェア・エンジニアリング 第9版(共訳)やSQuBOKガイド V3(共著)、[改訂新版]マインドマップから始めるソフトウェアテスト(共著)がある。プライベートではミュージカル観劇やレトロPCいじりが好き。最近はX68000ブーム再来中。
これからの10年に向けて、CQOというポジションを新たに作り、品質にコミットしていく
ーお二人のご経歴と担当領域について教えてください。
高橋: 私はマイクロソフトでQAとしてのキャリアをスタートし、日本とアメリカ両方で働いていました。
その後、品質についてもっと深く学びたいと思い、アメリカのフロリダ工科大学大学院に入学。卒業後は日本に戻り、ソニーに入社後、10年以上ソニーのソフトウェア品質担当部長として、ゲーム機など様々な製品のテスト責任者をしていました。 また、その期間中に博士号を取得したり、ソフトウェアテストに関する技術書もいくつか出させていただきました。
マネーフォワードでは、海外拠点の品質活動改善を担当しています。
池田: 私は新卒で日立グループに入社し、日立グループの中で3社を経験しました。
エンジニアリング会社で組込み系開発者からキャリアが始まり、部署異動を機に品質の世界に飛び込みました。情報通信系や医用系、自動車系と多様なドメインで品質保証や技術導入に関わりました。
関わったどの製品も、人々の生活や人命など社会的な影響がある分野でした。品質要求が高く厳しい仕事が多く、大変有意義な経験を得ることができました。 また、日立グループでは日立製作所直下のグループ会社横断部会活動があり、そこでグループ全体のテスト技術力向上や技術者育成活動にも主査として取り組んでいました。
その後、SaaS系企業を経て、少し充電期間を得たのちに、マネーフォワードにご縁をいただき入社しました。Fintech分野での新しいチャレンジにワクワクしています。
マネーフォワードでは、国内の品質活動改善を担当しています。
ー国内・グローバル担当以外にも、技術についてお二人の強みの違いなどはあるのでしょうか。
池田: 強みというよりスタイルの違いが近いのですが、寿一さんはテクニックアプローチ志向、私はプロセスアプローチ志向というスタイルの違いがあります。両方揃うことでクオリティマネジメントの実現も目指していけるので、技術面でも連携・分担しながらやっていきます。
ーCQOというポジションは、まだ国内のWeb業界では耳馴染みのない役職だと感じているのですが、いかがでしょうか。
池田: 国内の状況でみると、CQOというポジションはまだまだ若いポジションです。Web業界の中では、品質に力を入れているSaaS企業でCQOというポジションが少しずつ増えてきている印象です。
一方製造業などでは、10年以上前からCQOを置き、品質活動を着実に前に進めている印象があります。
国外については寿一さん、どうでしょうか。
高橋: 2007年ごろに、マイクロソフトがCQOを導入したのが最初だったような気がします。 アメリカでは品質に関する責任が明確だったりするので、そういった意味でも今後CQOという役職やポジションは日本でも広がっていくでしょう。
ーCQOに就任されて、率直な気持ちを教えていただけますか。
池田: キラキラした感想はないのですが、マネーフォワードがCQOというポジションを作り、今後更に品質に力を入れていくという思いを社内外に伝えられたのはよかったと感じています。
今、マネーフォワードは設立から10年が経ち、今後の10年間を考えていくタイミングです。このタイミングで、経営陣が今後さらに品質にコミットすることを決め、ポジションを作り、しかも2人もという判断をしたのは大胆な決断ですし、拝命するにあたって身が引き締まります。そのなかで長く友人としてお付き合いがあった寿一さんと一緒に協力してやっていけることは、個人的にもとても嬉しく思っています。
高橋: 私もあまりないのですが、CTOの中出さんと「大変そうだね」と話すことはよくあります。
これまでの10年はスピードを重視して、たくさんのプロダクトを作り成長してきましたが、品質に関する課題は多々あります。
また国内だけでなく、海外拠点の立ち上げも行っている状況です。組織面でもクリアにするべきさまざまな課題があるので、やらなければいけないことは多いです。
ーお二人は入社前からお知り合いだったと思うのですが、どのくらいの付き合いになるのでしょうか。
池田: もう15年以上ですかね。日本のソフトウェアテスト分野のトップカンファレンスでJaSSTというシンポジウムがあるのですが、その立ち上げメンバーの一人が寿一さんです。
私は一般参加者としてJaSSTに参加していたのですが、実行委員より「池田さんも実行委員はどうですか」と誘われて、その時に寿一さんと初めてお会いしました。 その後、仕事での直接的なやり取りはなかったのですが、社外活動ではご一緒させていただくことが多かったです。
そうしたら今回、気が付いたら一緒の会社になってるから、お互い笑っちゃいました。
寿一さんとは、お互いの人間性はよく知っているし、うまい具合に技術的にも経験的にも補完関係があります。 でもベースのテストや品質といった知識は一致していているので、議論もしやすく、これから行っていく施策についてもスピード感をもって行えると期待しています。
高橋: 私もいい意味で、楽だなと安心しています。
スピードを求めると、品質が下がるというのは、誰も希望してない。「全員参加」で品質を向上させる
ーマネーフォワードではUser Focusというバリューや、Speedといったカルチャーがあります。SaaSプロダクトにおいて、品質とスピードの両方を高めながら開発を行う際、大切にするポイントなど、お二人のご意見をお聞きしたいです。
高橋: まず、スピードを求めると、品質が下がるというのは、誰も希望してない。 ということが明確に言える時代になりました。
これまではスピードを追及すること、顧客の要求に対して、素早く反応することが良いとされる時代でした。ですが、顧客だって変なものが欲しいわけではないですし、良いものが納品されるのであれば、待つこともできます。
そういうことを社内外で助言を求められた際、話すことが増えてきました。
特に今のマネーフォワードにおいては、早く出すということはもちろん重要だけれども、使ってくださるお客様の数が増えているので、早く出すだけでは厳しいですよね。
また早く品質の良いものを出すためには、コストが必要です。もちろんバランスだとは思うのですが、必要なコストはしっかり払わなくてはいけないと考えているので、常日頃からCTOの中出さんとも開発全体における品質のコストバランスについては話し合っています。
池田: 私としては「全員参加」がとても大切だと信じています。
品質は企画からリリースまで、開発の各局面で全員の仕事が掛け算されて決まってきます。そしてそれらすべてがお客様に向いていないと品質は上がっていきません。
マネーフォワードが大切にしている「User Focus」というバリューは「社員全員」に浸透しています。先程申し上げたことの素地がすでにあります。今後の様々な施策を進めていく上で重要な前提となってきますし、入社の決め手となったひとつでもあります。
技術面でも、私が編纂に関わった、SQuBOKガイド V3 ではテストや品質保証だけでなく企画から保守まで全てがスコープとなっています。 なので、品質を向上させるとなった時、テスト技術だけではなく開発技術等あらゆるものを高めていく必要があります。ソフトウェア開発のライフサイクル全体で、開発にかかわる人全員が意識して、品質は高めていくものだと断言できます。
そういった全員参加型の品質保証活動を実現していくうえで、品質技術や活動全体を取りまとめるQAスペシャリストや組織の存在はとても大切ですので、皆さんと一緒に様々な取り組みを作っていきたいなとわくわくしています。
ー具体的にこれからのマネーフォワードで取り組むことを教えてください。
池田: まずCQO室を作り、縦の活動としてQA活動やリソースを強化するほか、横の活動として横断的なワーキンググループ活動を推進していきます。 全体戦略と、サービスを軸とした社内のバーチャルカンパニーの事情を考慮した戦略を考え、新たなフェーズに対応すべくQA組織の今後の建付けやミッション等を定義していく予定です。
またマネーフォワードにはベトナムやインドの拠点もあるので、国内のQA組織との一体的運用ができるように検討を進めていきます。
海外拠点との連携で重要なのは「私たちがどう寄り添うか」
ー海外拠点との連携で大切にしていることなどありますか。
高橋: 国内で英語を流暢に喋れる人材は多くないので、そこをどう埋めてコミュニケーションを円滑にしていくのかが重要だと思います。
今後、世界的に活躍する人材を獲得し、企業を柔軟に成長させるためには、日本国内だけでなく、海外の人材も積極的に受け入れることが重要です。そのとき、文化の違いによって混乱が起こることがあるかもしれません。「郷に入っては郷に従え」と自分たちのやり方を伝えた方がよいという考えもあるかもしれません。
しかし、私はそうではなく、日本側がどう寄り添うかが大切だと思うんですよね。
私自身、これまでも数千人規模の海外人材と仕事をしてきました。異文化コミュニケーションは大変ではあるのですが、 ここでコミュニケーションが「めんどくさいな」と思ってしまうと、マネーフォワード全体としての開発力は伸びていかないかなとは思っています。
高橋: またエンジニア同士の相互理解や、私たちがどうしたいのかということをきちんと伝えることも重要だと思います。
具体的に、今は距離を縮めるとこに注力しています。 先月も池田さんや部長の雨宮さんと一緒に、ベトナム出張に行きました。
そのとき、夕方に空港からホテルに行こうとしたら、すごく渋滞していたんです。ベトナムでは残業を基本的にしないから、みんなが一斉に帰宅することで渋滞になるそうです。
こういった国のことや人のことを理解するということは、すごく重要だと思ってます。
心配事だけでなく、ポジティブさを持って変化に対応していく
ーお二人は、今後どんなスキルを持った方と一緒に働きたいですか。
池田: 今後の5年、10年のプロセス改善を強くリードして、品質に関するフィードバックサイクルを力強く、高速に回していくための知見を持った方に加わっていただきたいです。
マネーフォワードは、これまでの10年とこれからの10年でフェーズが大きく異なっていきます。
これまでは、たくさんのサービスをリリースして、アーリーアダプターと呼ばれるお客様にあたたかく見守っていただいた部分がありました。 その後、事業拡大のフェーズに入り、私たちのようなクラウドサービスを利用するお客様がマジョリティとなりました。
そうなると安定稼働など、お客様から求められるものが変わり、それに合わせて、開発や品質保証のやり方も変わらなければいけません。
なので、社内のメンバーの技術や考え方などもよりよくアップデートしていく必要がありますし、多角的な視野をお持ちの方にもご入社いただきたいです。
高橋: 頭の良さや経験も大切だと思いますが、柔軟性や変化に対して積極的に適応できる力も同様に重要な要素です。
開発も同じだとは思うのですが、技術の進化は早いし、網羅するべき技術範囲も広いと思うので、日々勉強しないとなかなかきつい職業だというのは昔から変わっていません。
他にも様々な状況の変化に応じて、ポジティブな意見を述べてくれる人かどうかをみているし、そういう方と働きたいと思っています。
池田: たしかに、ポジティブさはとても重要ですよね。
先ほどもお話したように、マネーフォワードはフェーズが変わっていきます。エンジニアひとりひとりも日々アップデートしていかなければなりません。
自分をアップデートすることに拒否反応がなく、むしろそういった変化を楽しみに変えられる人が、これからのマネーフォワードには合っていますし、大活躍していただけると確信しています。
マネーフォワードでは、QAエンジニアをはじめ様々な職種で採用を行っています。ぜひ採用サイトをご覧ください。
また2023年5月10日【freee/マネーフォワード/メルペイ】クレジットカードの当たり前品質を支えるQAの楽屋裏と題して、イベントを開催します。マネーフォワードの具体的なQAエンジニアの取り組みについてお話しできればと思います。ぜひご参加ください。