エンジニアリング戦略室の高井です。先頃からお伝えしているように、マネーフォワードではエンジニア組織の公用語を英語にすることを計画しています。世界中から優秀なエンジニア人材を集め、プロダクトをさらに成長させることが目的です。
エンジニア組織の英語化に向けて、組織的な英語研修のトライアルも始まりました。英語習熟度に応じたプログラムを策定し、そのための研修を行なっています。まずは直近で必要となる人からということで、第一弾となる英語研修プログラムに参加しました。
今回の記事は、そのときの個人的な経験の記録です。私自身、大学卒業後に、これといって積極的に英語を勉強したことがありませんでした。もちろん、ソフトウェアエンジニアとして、英語ドキュメントを読む必要があったり、カンファレンスで英語スピーカーの発表を聞いたり、英語学習方法のブログをブックマークしたり、英語学習の書籍を購入だけしたり、ということはありました。ようするに、日本の一般的なソフトウェアエンジニアを想像してもらえると、その通りということになります。
その証拠というわけではないのですが、研修前の昨年12月に TOEIC L&R IP を受験したときのスコアは 665 点でした。TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2021 によると TOEIC の社会人平均スコアが 637 点とのことですので、私のスコアは社会人として一般的なスコアだとお分かりになるかと思います。
その後、3ヶ月間の英語学習の成果測定として、先日に受験した TOEIC L&R IP では 890 点までスコアを伸ばすことができました。このスコアは概ね TOEIC 上位5%くらいの位置ですから、それなりに研修の成果があったと言えるのではないでしょうか。
この記事では、その一般的なソフトウェアエンジニアが、どのように英語学習に取り組んだか、またそれによって得られたものはどのようなものなのか、それについてお伝えできればと思います。私自身は英語教育のプロではないので、正しい学習方法について説明するというよりも、個人の体験談としてこういうこともあるのだなと参考にしていただければ幸いです。
英語学習時間
私が受講した研修は、いわゆる英語コーチングというものです。週2時間の少人数でのトレーニングに加えて、毎日の自習課題が指示されて、次のトレーニングまでにそれに取り組むというスタイルになっています。
総自習時間は 160 時間弱、1日あたりの学習時間は1.5〜2時間、週あたりで12〜13時間くらいのボリュームです。今回の英語研修プログラムでは、就業時間3時間までであれば英語学習にあてても良いという制度になっています。そこで、毎日、朝30分〜1時間、勤務時間中30分、夜30分〜1時間というペースで英語学習をしていました。
学習時間は Studyplus に記録することになっていました。グループ学習だったのでメンバー同士でフォローをしあって、お互いの学習状況がタイムラインとして共有される仕組みです。グループのメンバーが頑張っている姿から刺激をうけて、自分も頑張ろうと思えるので、学習にポジティブな影響を与えていたと感じています。
私が継続的に学習を続けられたのは、朝に学習の時間を確保できていたことが大きいと自己分析しています。今まで、朝に趣味のことをやるという習慣があったので、その時間を英語学習の時間にあてるようにしました。おかげで趣味の方はさっぱりという感じになってしまったのですが、3ヶ月間という期間はできる限り頑張ってみようと決めて取り組むようにしました。
基礎学習
英語学習というと英会話が強調されがちですが、英語学習には段階があり、その段階によって効果的なトレーニング方法は異なるそうです。英語学習は次のような段階を踏んでいくと効果的だとされています。基礎、インプット、アウトプットという順番です。
- 基礎(文法、語彙、発音)
- リスニング、リーディング
- スピーキング、ライティング
英語コーチングでは個々人の段階を見極めて、その段階にあった学習方法や学習内容を提案してくれます。私たちのグループの場合、語彙と発音、それからリスニング、リーディングが中心でした。文法については今回のプログラムでは、あまり触れられることはありませんでした。おそらくこういったやり方が TOEIC 600 点前後の人にとって、ちょうどいいやり方なのかもしれません。
文法
今回の英語コーチングでは、英文法そのものについてはそれほど強調されていませんでした。英文読解で精読できるだけの文法力、つまり、ある文章を読んだときに品詞分解ができて文構造が分かることが前提になっていたかとおもいます。
私自身は文法に関しては、ちょっとあやふやになっている部分が多いと感じていたので、研修開始前に数日かけて「大岩のいちばんはじめの英文法」を通読しました。この書籍は大学受験で基礎英文法の復習として定番の書籍になっているようです。分厚い英文法の参考書が多い中で、ボリュームも手軽で内容もまとまっており、おすすめの参考書です。
コーチングの後半では abceed で「TOEIC L&R テスト 文法問題 でる1000問」を毎日一定量取り組んで、文法の穴を埋めていくこともしていました。こちらはどちらかというと TOEIC 対策という側面が大きかったです。
語彙
アルクの単語帳アプリ「キクタン TOEIC®【All-in-One版】」を、毎週480語ずつ憶えていくということをしていました。毎週、その範囲の確認テストがあり、基準点をとれないとまた同じ範囲が課題になるというスタイルです。リスニングのためにも単語は必ず音声と一緒に憶えていきます。
なかなか辛い作業ではありますが、英単語の学習は分かりやすく成果が見えるので、モチベーションを維持できました。例えば、実際にリーディングをしていたときにでてきた下の文章には、キクタンに登場する dilute や undermine といった語が含まれています。
Managers sugarcoat feedback in an attempt to make it land better, but in reality they dilute the message and undermine the feedback.
なかなか憶えられない単語については、次のようなことをしながら覚える工夫をしていました。また、自分で簡単なフラッシュカードプログラムをつくって、ちょっとした隙間時間でそれをやって記憶するということもしていました。
- 語源を調べる、関連語との対比で覚える
- Youglish で用例を調べる
- 自分で例文をつくる
- ダジャレで覚える(最後の手段)
TOEIC では難易度の高い単語を言い換えて、それを選択させる問題がリスニング、リーディングとも出てきます。単語はやればできるものなので、できるまでやりましょう。
リスニング
リスニングは、大学受験に向けて英語学習をしてきたのだけれど、という大多数の人にとっては難しい分野なのではないでしょうか。私自身もこれまで、リスニングについての勉強をほとんどしたことなかったので、英語の音声変化について学習したときには「なんで今までこれを教えてくれなかったの?!」という気持ちでいっぱいでした。何で英語のリスニングができないかというと、それはシンプルな理由があります。どのように発音するか、きちんと習ってこなかったという理由です。
例えば will は「ウィル」と発音されることなんてほとんどなく、だいたい弱形で「ゥ」とだけ発音します。これは、私が英語教育を受けていた30年前には教わらなかったことです。日本の英語教育については、今回の英語学習を通じて、わりとポジティブな意見を持つに至ったのですが、この点についてだけは本当に勘弁してくれよという気持ちです。
実際の英語は、音声のならびや発話者の意図によって変化します。もちろん、変化には規則があり、それを音声変化と呼びます。音声変化の詳細については、よくまとまっている記事、例えば「英語の「音声変化」の特徴と効果的な学習方法」のようなものがあるので、そちらを参照してください。
重要なのは、音声変化について知識として知りつつ、実際の発話を分析して理解する能力です。この知識がないとなぜそのように変化するのかを理解できないからです。例えば、「where is he」は「ウェア イズ ヒー」ではなく、 he の h が脱落しつつ、 is と連結して「ウェアリジ」のように音声変化するのだなと理解できるようになります。
デクテーション
デクテーションとは、英語音声を聞いて、聞こえた音声をそのまま文字起こしする学習方法です。対象とするのは短文で、トレーニングでは 公式問題集にある TOEIC リスニングの会話問題(Part 2)を教材にしていました。質問文を聞いて、いったん停止して、それを文字に起こして、回答を聞いて、いったん停止して、それを文字に起こしてという作業です。分からない部分については、一回だけ聞くのではなく、何度も繰り返して聞きます。不思議なもので、答えを知ってしまうとそのように聞こえるようになります。初めて耳にしたときにどこが聞けないのかというのは貴重な情報ですので、分からないことが分かるようになるまで、しっかりと聞きとりをします。
その後、正解のスクリプトと書き起こしたものを比較します。正解・不正解を確認するだけではなく、間違った場合には きちんと分析をして理解するように心掛けていました。そのときに役に立ったのが YouGlish です。例えば、「turn right」を「ten light」と聞き間違えていたとします。そのときには、両方のフレーズとも YouGlish で検索をして、その違いを確認するようにします。 r の音が問題だったのだなと理解するわけです。
もし、興味があるのなら TOEIC 公式サイトにサンプル問題 があるのでデクテーションに挑戦してみてください。参考までに No. 7 のスクリプトをのせておきます。
No.7 スクリプト
Where's the new fax machine?
- A. Next to the water fountain.
- B. I'll send the fax tomorrow.
- C. By Wednesday.
オーバーラッピング
ここまでしたうえで、さらにオーバーラッピングという手法で学習していきます。オーバーラッピングは、再生された音声に自分の声をかぶせて、まったく同じように発音する学習方法です。物まねのように声の高さや強さも完全にコピーすること目指します。人間は不思議なもので、自分で発音できるようになると、聞きとれるようになります。
オーバーラッピングをするときには、どのように音声変化が起こっているかを理解していないと、まったく同じように発音できません。例えば、先ほどの問題にあった「I'll send the fax tomorrow.」も「アイ ウィル センド ザ ファックス トゥモロウ」と発音していては音が重ならないわけです。音声変化によって will が弱形になり、 send の d が脱落していると知識をつかって理解をしたうえで、練習をしていきます。
発話はできるまで繰り返し練習します。できない部分は、音声を 0.5 倍速にして練習をして、できるようになったら 0.8 倍速にしてという風に練習をしていました。いきなりオーバーラッピングが難しいということであれば、リピーティングといって聞いたあとに発声する方法からスタートするのもおすすめです。最初に「the fax」、次に「send the fax」、最後にまとめて「I'll send the fax」のように、小さなかたまりを練習していく方法もあります。
音声を再現できないときには、YouTube に 『あいうえおフォニックス』英語発音 や Sounds American など参考になるチャンネルがたくさんあります。どうしても再現できないときには、まずは可能な限り音を再現できるように平仮名で書いて、それを読むところから始めるのも効果的です。
リスニングは頭で理解をして、身体に覚えさせていくこと、これが近道のように感じました。口の運動だとおもって、反復練習あるのみです。
リーディング
TOEIC のリーディングは分量が多く、私が最初にTOEICを受けたときには、最後まで問題が解けませんでした。おそらく原因は二つあって、語彙と読み方です。
語彙が不足していると、文章の意味を理解できません。語彙の学習については先ほど書いた通りです。TOEIC はビジネスに関する出題も多く、受験英語とはまた違った単語がでてきたりしますので、対策が必要です。読み方も、英語を翻訳するような読み方をしていると時間がかかってしまいます。そこで、読み方を変えて、英語を英語のまま理解できるようにしていきます。
チャンクリーディング
英文を読むスピードがでないのは日本語に翻訳をしながら読んでいるからです。英語と日本語と文構造が違うので、英語を日本語に翻訳しようとすると「ここは関係代名詞だから前の名詞を修飾して」という風に文章を行ったり来たりしながら読むことになります。これがスピードが出ない原因になっていました。
そうではなく、英文を意味のかたまり毎にそのまま理解していく読み方がチャンクリーディングになります。米国バイデン大統領の雇用統計に関する会見からの一文です。
There is every reason for the American people to feel confident that we'll meet these challenges.
これを日本語訳しようとすると下記のようなものになるでしょう。
アメリカ国民がこの難局にうまく対処できるだろうと確信する十分な理由があります。
語順がまったく違うことに気付くはずです。意味のある日本語を組み立てようとすると、英語を読み進めては戻ってと何度も往復しながら読む必要があります。これでは文章を読む速度があがりません。
そこで、下記のように意味のかたまりに区切っていくと
- There is every reason (十分な理由がある)
- for the American people (アメリカ国民にとって)
- to feel confident (確信する)
- that we'll meet these challenges. (うまく対処できるだろう)
のようになります。これで文意がとれるように練習していきます。慣れてくると、英語を日本語に翻訳するのではなく、そのまま理解することができるようになってきます。
リードアラウド
チャンクリーディングを身に付けるためにも、毎日英文を読むという習慣も重要です。辞書を引かないでも読めるくらいの難易度の英文を選び、それを読んでいました。自分が興味がある分野の記事を見付けて読むと続けやすいでしょう。ニュースは毎日更新があってよいのですが、難易度が高いです。
コーチングで特に指示があったわけではないのですが、文章を読むときには音読をしていました。音読をすることによって、行ったり来たりしながら読むことがなくなる、読み飛ばすことがなくなる、単語の発音が身につくなどの効果が見込めます。読むときにはチャンクリーディングを意識しながら読んでいきます。
電車などで声を出せない環境のときには、 iPhone の Google アプリの読み上げ機能を利用していました。なぜか、 Google アプリのみで Google Chrome では利用できない機能なのですが、とても高品質な機械音声による読み上げ機能があります。この音声を流しながら、同じスピードで黙読をしていきます。
シャドーイング
シャドーイングは、再生される英語音声から少しだけ遅れて、まったく同じように発声するという練習方法です。主にリスニングやスピーキングに効果があるとされています。シャドーイングについて最後にもってきたのは、確かな効果がある学習方法ではあるものの、正しくすることが難しい方法だからです。これまで説明してきた英語学習で得られた土台があって、初めて成立する手法です。とはいえ、効果的な方法ですので最初から少しずつでも取り入れるのがよいと感じています。
コーチングでは、公式問題集の Part 4 などを題材にシャドーイングしていました。たとえば、 TOEIC 公式サイトのサンプル問題 No. 71~73 のような音声です。初めてシャドーイングを知ったときに、これは絶対に真似できないと感じるくらいです。いままでシャドーイングをやったことがないという方は、試してみてください。かなり難しいはずです。
そこで、私はまずシャドーイングだけを練習して感覚をつかみました。英語とシャドーイングのふたつを同時にやるのではなく、日本語のNHK ラジオニュースなど適当なものをピックアップしてシャドーイングしてみてください。びっくりするほど簡単にできるはずです。聞きながらそのまま話すことや、聞いて意味を浮べたうえで話すという感覚がつかめたのであれば、シャドーイングそのものの練習は完了です。
シャドーイングでは、文字起こしされたスクリプトを用意します。まずはチャンクリーディングで意味を理解できるようにして、そこからオーバーラッピングで一文ずつ再現できるようにしていきます。その後、スクリプトを見ながらシャドーイング、スクリプトを見ずにシャドーイングと段階を踏んでいきます。
毎日少しずつ、同じ題材を練習していきます。30秒くらいの音声であれば毎日15分くらい練習して、1週間くらいでシャドーイングができるようになってくるはずです。耳からはいってきた音の意味を理解して、そのうえで自分が発声できるようになったら完成です。きちんと音声を再現できているか、録音をして確認するのも効果的です。
まとめ
英語は正しい学習方法で時間をかければかけるほど伸びていきます。私が3ヶ月間の学習で TOEIC 890 点まで伸ばせたのも、ただただ毎日しっかりと時間をとって学習をしたからです。英語力は線形的に成長をしていくわけではないので、途中で同じことの繰り返しだなと嫌になってしまうこともありました。しかし、時間をかけただけ、着実に成長していくと信じて取り組んでいました。
毎日の学習はバランス良くこなします。文法、デクテーションとオーバーラッピング、リードアラウド、シャドーイングはそれぞれ15分くらいずつ学習し、単語100語を目安に記憶していきます。
- 文法 15分(TOEIC L&R テスト 文法問題 でる1000問)
- デクテーションとオーバーラッピング 15分(TOEIC公式問題集)
- リードアラウド 15分(興味のある英語記事)
- シャドーイング 15分(TOEIC公式問題集)
- 単語 100語(キクタン TOEIC®【All-in-One版】)
このメニューを行なうと少なくとも1時間はかかるはずです。これを毎日やりましょう。継続的な学習だけが英語力を伸ばします。
継続的な学習のためには習慣化することが重要です。毎日の習慣とセットにして、英語学習を習慣化してしまいましょう。私は朝食後にコーヒーを自分の机で飲むことが習慣になっています。そのコーヒーを飲んだあとに英語学習をするようにしていました。このように習慣となっていることにくっつけて英語学習を取り込むことで、習慣化することができます。
次のステップ
今回の英語研修では、リスニング、リーディングについて TOEIC 対策を通じて学習していったので、残念ながら英語が話せるようになったというわけではありません。しかしながら、まったくそれが意味のないことだとは考えていません。
現時点の英語力を具体的に書くと次のようになります。TEDのようなスピーチはかなりの部分を聞き取り意味を理解することができます。ニュースは単語が難しいことがあるので、ものによってついていけない部分があります。映画やドラマのくだけた会話は聞き取りが難しいことが多いです。英語の文章を読むスピードは圧倒的に速くなり、一読して意味がとれない文章が減りました。正直なところ、今は基礎をしっかりと固めることができた段階かなと考えています。 TOEIC というチュートリアルステージを終えて、スピーキング、ライティングに向けた学習をするステージになった感覚です。
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