
マネーフォワードCTO室で、エンジニア兼AIリーダーを担当しているHirotaka Kawata(@hktechno)と、とんがり(@tongari07)です。
この記事では、社内向けのAIスキル共有基盤を通じて、AI活用をどのように組織へ広げているかを紹介します。
AI活用を個人技で終わらせないために
コード生成やレビュー補助、設計検討、ドキュメント作成など、開発のさまざまな場面でAIを使うことは、日常になってきました。実際に使ってみると非常に便利ですし、開発の進め方そのものが変わる手応えもあり、すでに手放せないものとなっています。
一方で、組織全体で見ると、AI活用の質や深さにはまだ大きな差があります。マネーフォワードは1000人近いエンジニアを抱える組織であり、多数のプロダクトを運用しています。チームごとのAI活用度も多様です。そのため、一部のメンバーやチームで得られた知見がそのまま全体に広がるわけではなく、使いこなし方に差が出るのは避けられません。
AIにどのような文脈を与えるべきか、どこまで具体的に指示すると精度が上がるか、どの作業をAIに任せてどこを人が判断すべきか。そうした感覚は、実際に試行錯誤を重ねた人・チームほど身についていきます。ただし、その経験は放っておくと個人やチームに閉じやすいものでもあります。必要だったのは、各自が持っている知見や前提を、ほかのチームでも使える形にしていくことでした。
これは、知見を単にドキュメントとして置いておくだけでは足りません。日々の開発の中で必要な標準や過去の知見を毎回読み返し、それをAIへの指示にまで落とし込むのは個人では簡単ではないからです。各自の工夫やチームの知見を持ち寄り、別のチームでも使える形にする。それができれば、組織として継続的に改善し質の底上げにつなげられます。そのための仕組みが必要とされていました。
社内向けのAIスキル共有基盤
この問題を解決するために作られたのが、社内向けのAIスキル・プラグイン共有基盤です。これはMoney ForwardのAIエージェント向けに、Agent Skillsやプラグインを共有するためのリポジトリです。社内では、ai-agent-tools という名前でGitHubに展開し、Claude CodeやCursorのマーケットプレイス として提供されています。
// .claude-plugin/marketplace.json の例
{
"name": "mf-claude-plugins",
"plugins": [
{
"name": "doc-formatting-guide",
"source": "./plugins/doc-formatting-guide",
"description": "Provides formatting guidelines for human-readable documentation, ensuring clear and accessible technical content"
},
...
]
}
チームをまたいでプラグインやAgent Skillsを育てていくための共通基盤として設計されており、個人専用のものや特定リポジトリに閉じたものはローカルやそれぞれのリポジトリに置くというルールもあり、切り分けも明確になっています。Claude Codeでは、各リポジトリの設定で使って欲しいプラグインやマーケットプレイスを 設定ファイルで列挙 し、各自の環境を統一できます。
// .claude/settings.json の例
{
"extraKnownMarketplaces": {
"company-tools": {
"source": {
"source": "github",
"repo": "your-company/ai-agent-tools"
}
}
},
"enabledPlugins": {
"code-formatter@company-tools": true,
"deployment-tools@company-tools": true
}
}
このような共有基盤があると、AIが「社内ではこうするべき」という文脈を参照しやすくなります。毎回長い指示を書かなくても、どういう観点を重視すべきか、どの標準に沿うべきかを、AIがある程度踏まえたうえで提案しやすくなります。
また、あるチームが蓄積した知見を、別のチームでもそのまま、あるいは少し調整しながら使えるようになるのも大きな点です。スキルとして共有された知見は、個人の工夫にとどまらず、組織として継続的に使い、改善していける対象になります。
マネーフォワードのように大きな技術組織では、この「持ち寄る」「共有する」「更新する」がスケールすることに意味があります。多くのチーム・エンジニアがいるからこそ、各個人やチームで積み上がった知見を共有されたスキルとして流通させる価値があります。重要なのは、誰か一人が完成形を作ることではなく、各自が必要なスキルを持ち寄り、使われる中で改善していくことです。そうした循環ができると、AI活用そのものを、個人の工夫ではなく組織のエコシステムとして育てていけます。
活用事例
デザインシステム「Money Forward UI」
フロントエンド開発では、ReactやTypeScript、CSSに加えて、デザインシステムの知識も重要です。一般的なUIを作るだけならAIでもある程度対応できますが、実際のプロダクト開発で求められるのは、社内のコンポーネント体系やレイアウトの考え方に沿った実装です。ここが欠けると、動くものは出てきても、開発にそのまま乗せやすい形にはなりにくいです。
また近年は、デザイナーがAIコーディングエージェントを使い、プロトタイピングとして直接コードを生成する取り組みも増えています。これまでデザイナーがFigmaのデータ作成時に自然に行ってきた「デザインシステムのルールに準拠する」という作業を、AIはそのままでは再現できません。ガイドラインとして定められたデザインルールをAIに伝えることは、デザイナーの役割を広げるうえでも重要です。
そこで社内向けデザインシステムMoney Forward UI(以下MFUI)では、Figmaのcomponent名とReact Component名の対応づけ、レイアウトルール、導入セットアップなど、複数のツールを含むプラグインを提供しています。これにより、AIがMFUIを前提に実装しやすくなり、デザインシステムに沿った形で開発を進めやすくなります。また、デザイナーのプロトタイプ品質が向上することで、PdM(Product Manager)やエンジニアとの情報共有の質も高まります。
共有基盤は、デザインシステムを社内に浸透させ、使い勝手を向上させるためにも活用できます。
Go / Kotlinなどバックエンド標準
バックエンドでも考え方は同じです。弊社ではGoやKotlinなど、複数の推奨バックエンド技術スタックが存在します。その中で、単に言語仕様を知ってコードを書けることよりも、社内でどういう設計や実装、レビュー観点を重視しているかのほうが、日々の開発には効いてきます。
スキルリポジトリには、Goバックエンド、Kotlinバックエンド、API設計、DBスキーマ設計など、バックエンド開発でよく出てくる観点をAIが参照しやすい形で整理したプラグインがあります。Kotlinであれば、クリーンアーキテクチャ、推奨ライブラリ (ORM, HTTPフレームワーク)、公開用APIの設計ポリシー、セキュリティ観点など、実装やレビューで繰り返し現れる論点を扱えるようにしています。
ここで重要なのは、AIにコードを書かせることそのものよりも、社内で大事にしている観点や特有の事情をAIに伝えられる点です。毎回ゼロから説明しなくても、ある程度その前提を踏まえた提案やレビュー補助が返ってくるようになると、日常の開発での使い勝手は大きく変わります。
インフラ・社内基盤
実際の開発では、言語やフレームワークだけで仕事が完結するわけではありません。ドキュメントの置き場所、インフラ (AWS, k8s) の設定、GitHubやJIRAの運用など、社内基盤や開発フローに関わる知識も重要です。こうした部分は、一般的な知識だけでそのままAIが扱えるとは限りません。
基盤系のプラグインも含めているのは、AIに言語仕様だけでなく、実際の開発で必要になる社内の運用や仕組みまで含めた前提を持たせたいからです。アプリケーションコードだけでなく、その周辺にある基盤や運用の知識まで含めてAIの作業文脈に入ってくると、より実務に近い形でエージェントを使えるようになります。
社内の技術標準を日々の開発に溶け込ませる
共有されたスキルの価値が特に出やすいのは、社内独自の技術標準やベストプラクティスの扱いだと思っています。これらは、ドキュメントが存在しているだけでは、日々の開発に自然と反映されるとは限りません。存在は知っていても、実装中やレビュー中に必ず思い出せるとは限らないからです。
その点、標準やベストプラクティスをスキルとして整備しておくと、AIが実装やレビューの流れの中で自然に参照しやすくなります。つまり、標準を読むだけでなく、日々の開発で使われやすい形に近づけることができます。スキルリポジトリに、社内技術標準に関わるプラグインが多数含まれているのも、その延長にあります。そして、分野ごとにCIでAIを使ったレビューを走らせるための呼び出し可能なスキルも用意し、品質の高い社内のAIコードレビューの仕組みを確立することもできます。
これは、ルールを強く押し付けるためのものではありません。むしろ、人が普段の開発で思い出してほしいことを、AIにも同じように思い出させやすくする工夫です。ルールを日常の作業の中に少しずつなじませていく、というイメージが近いと思います。
おわりに
もちろん、これはまだ始まったばかりの取り組みです。仕組みとしても運用としても、実験段階の部分はあります。ただ、短期間でも着実に前進している実感があります。
当初はClaude Codeのみをターゲットにしていたこのリポジトリも、Claude Code向けに閉じたものではなく、マルチLLM対応 (CursorやCodexなど) を見据えた共有基盤として整備し直しました。2月初旬の時点で共有されていたプラグインは11個でしたが、その後も各チームから追加と改善が続き、現在マーケットプレイスに登録されているプラグインは28個になっています。
まだ完成された仕組みというより、実際に使いながら少しずつ育てている段階ですが、それでもここまで広がってきたことには意味があると感じています。
AIを使う個人がそれぞれ工夫するだけでなく、組織として知見を蓄積し、再利用し、改善していく。そうした流れを作れるかどうかが、これからのAI活用ではより重要になっていくのではないかと思っています。