はじめに
マネーフォワードCQO室でQAエンジニアをしているTaka(@tk47_php)です。
この記事はJaSST'25 Tokyoの参加レポートとなります。
今回のJaSST'25 Tokyoには「How Google Tests Software」や「How to Break Software: A Practical Guide to Testing」、「Exploratory Software Testing: Tips, Tricks, Tours, and Techniques to Guide Test Design」の著者であるJames A. Whittaker氏が基調講演をされるということで参加しました。
JaSST Tokyoとは
NPO法人ASTERが運営するソフトウェアテストシンポジウム(JaSST)は、ソフトウェア業界全体のテスト技術力の向上と普及を目的としたカンファレンスです。
2003年に東京で始まったJaSSTは、今では北海道から九州まで、全国各地で開催される規模となっています。
https://jasst.jp/tokyo/25-aboutjasst.jp
個人的に面白かった発表3選
- スケールアップ企業のQA組織のバリューを最大限に引き出すための取り組み 平田 敏之(SmartHR)
- 手動 × ローコード × コードベース:3つのアプローチをつなぐ実践 高橋 諒(LayerX)
- コドモンのQAの今までとこれから-XPによる成長と見えてきた課題- 砂川 雅裕(コドモン)
スケールアップ企業のQA組織のバリューを最大限に引き出すための取り組み 平田 敏之(SmartHR)
要約
SmartHRの品質保証部マネージャーとして、QA組織のバリューを最大限に引き出すための取り組みについてまとめられた発表でした。 まずマネージャーとして「部のバリューを最大限に引き出すこと」をミッションと定め、このミッションを達成するために以下のアプローチを取られたそうです。
このミッションを達成するために行ったアプローチ
メンバーが成果を出せる状態づくり: メンバーが進むべき方向性を共有し、活動を妨げる不要な要素を取り除き、メンバーの行動を後押しすることです。
メンバーの成果が正当に評価される仕組みづくり: 成果が外部から見ても正当に評価されるよう、評価の基準を明確にし、関係者間でその基準に対する相互理解を深める取り組み(等級基準の策定・更新、事例共有、説明会、フィードバックなど)を進めることです。
メンバーの成果を知ってもらう仕組みづくり: QA組織が行っていることやメンバーの成果を、組織内外の人々に積極的に知ってもらう活動(組織内での情報共有、社内外への発信、QA職種自体の理解促進など)を行うことです。
これらの3つの土台はそれぞれが関連しており、連携して取り組むことが重要です。また、変化の速いスケールアップ企業においては、一度仕組みを作ったら終わりではなく、定期的に見直し、継続的に取り組みを続ける必要があると述べられています。
感想
これまで現場のQAエンジニアや横断組織のQAエンジニアとしての経験が中心だったため、QAマネージャーの視座で組織のバリューを最大化する取り組みを知ることができ、非常に新鮮でした。普段はテスト技法や自動化に関する発表に触れる機会が多いのですが、今回はマネジメントの観点から実際に行われている具体的な取り組みを学ぶことができました。
手動 × ローコード × コードベース:3つのアプローチをつなぐ実践 高橋 諒(LayerX)
要約
LayerXで登壇者が体験された、手動テストと自動テストの実践内容に関する発表でした。手動、ローコード、コードベースの自動テストそれぞれのメリット・デメリット、直面した課題と解決策についてまとめられていました。
プロダクト数の増加や既存プロダクトにおける機能拡張が進むにつれて、テスト実行リソースの枯渇が課題となり、自動テストの導入が検討されました。
まず、ローコードベースの自動ツールが導入されました。これは、専門知識がなくても比較的スムーズに導入できる点や、稼働時間外に自動でテストを実行できるというメリットがあったためです。しかし、動作が不安定で意図しない操作が発生したり、期待しない結果が表示されたりすることがある点や、実行に時間がかかるといったデメリットも見られました。
次に、テストケース数の増大や実行時間の長さ、さらには運用・保守コストといった課題に対応するため、コードベースの自動ツールの導入へと進みました。これにより、テスト実行時間の大幅な短縮、テスト実行コストの削減、そして類似テストの作成効率化といったメリットが実現されました。一方で、テストの実装や修正の難易度が高いというデメリットも存在しましたが、これに対してはペアプログラミングによるスキル向上、ナレッジ共有や読書会を通じた知識習得、さらにはAIを活用した調査やコードレビューといった対策を講じています。
現在では、これらの経験を踏まえ、テスト戦略として各手段を効果的に使い分けています。E2E(エンドツーエンド)テストにおいては、探索的テストや一部シナリオテストを手動で行いつつ、ローコードツール(Autify)とコードベースツール(Playwright)を併用しています。また、APIテストについては、コードベースのツール(runn)を活用して自動化を進めています。
感想
弊社ではローコードの自動テストを取り入れているプロダクトは少ないので、ローコードの自動テストを用途別に分けて使っている点が新鮮に感じました。QAチームで読書会を開きチームの知識を底上げする取り組みが素晴らしかったです。どうしても知識のキャッチアップなどは個人の取り組みになりがちな印象があるので、チーム全体で真剣に自動化に取り組んでいる姿勢を見習いたいと思います。
どの組織でも直面しうる「テスト実行リソースの枯渇」という課題に対し、ローコードツールから段階的に取り組みを進め、現在ではほぼコードベースの自動ツールを運用してコスト最適化を実現している事例は、大変参考になりました。特に最初から開発能力のあるQAエンジニアばかりではないチームの場合、このような徐々にローコードベースから慣らしていく方法も効果的であることがわかりました。
コドモンのQAの今までとこれから-XPによる成長と見えてきた課題- 砂川 雅裕(コドモン)
要約
QAエンジニアとして活躍されている登壇者の方が、XP(エクストリーム・プログラミング)のプラクティスにどのように関わり、何を得て、今後どのような貢献を目指すかについて発表されました。
コドモンでは、創業初期の「がむしゃら開発」からスクラム導入と自前の自動テスト開発を経て、2021年秋よりXPを全面展開しています。XPプラクティスとして、QAエンジニアは開発エンジニアとペアプログラミングやTDD(テスト駆動開発)に積極的に取り組み、当初は開発特有の用語理解に苦しみましたが自己学習により克服し、チケットの適切な分解などを通じて持続可能な開発ペースを体現しました。
また、プロダクトマネージャーやデザイナーと協力し、ビジネスサイドの要求や致命的バグの防止を重視した受け入れテストを再定義。これらTDDや受け入れテストで作成したテストはCI(継続的インテグレーション)によってリリース毎に自動実行され、テストが失敗した際にはリリースをブロックする仕組みも構築されています。 これらのXPを通じた経験は、QAエンジニアがシンプルな設計への理解を深め、エンジニアとの目線合わせやビジネス視点の取り込みを促進し、テストを継続的に実行する基盤構築を通じてチーム開発における柔軟なスキル習得に繋がりました。一方で、XPのプラクティスだけではテスト範囲に限界があり、テスト環境が別途必要な部分など、まだテストが不十分な領域があることも認識しており、これはチーム全体で対応すべき課題と捉えています。
今後は、書籍「エクストリームプログラミング 第2版」で示されるテスターの役割も参考に、システムレベルの自動テスト推進、テスト技法のコーチング、コミュニケーションの活性化を通じて開発中のテスト品質向上を図り、さらに開発の早期段階やリリース後といった広範囲な関与を目指しています。
感想
コドモンは個人的に利用しているアプリなので、その裏側の開発ストーリーを聞くことができ、大変興味深かったです。特に昨年発生した障害の話は、ユーザーとしても体験していたため、同じQAエンジニアとして共感する点が多々ありました。
登壇者も最初は開発経験がほぼゼロの状態から、エンジニアと協力してXPの取り組みを導入したエピソードが聞けて励みになりました。特にCIを使って仕組みでバグを減らす取り組みはちょうど私も今のプロジェクトで力を入れている分野なので聞いていて深く共感できました。
最後に
全体を通して、Jamesさんの今後のAIの未来予想図のお話から始まり、多くのAIの議論や各社の品質保証の取り組みについて幅広く最新の情報をキャッチアップできました。特にAI関連の取り組みは各社が注力しており、AIの進化によってQAエンジニアの仕事が将来どう変化するのかという不安を感じる一方で、自動テストのさらなる効率化などによって無駄な作業が削減された未来に何が待っているのか、期待も抱く複雑な心境になりました。
とはいえ、この先数年はまだ堅実な品質保証を続けていかなければならないと思っているので、組織、自動化、開発サイクルに焦点を当てた実践的なプラクティスを今回の発表で聞けたのはとても良かったと思っています。
組織の拡大に伴いまだまだ弊社でも品質改善のチャンスはたくさんあるので、マネーフォワードの品質保証を一緒に担ってくださる仲間を積極的に募集しています!
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